「I.D 〜EScape from Utopia〜」に関する考察

“I.D”について

identification

現在一般に“ID”と言われると思い浮かぶのは

「ログインID」などですが、

このIDは“identification”の略で「識別」などの意味を持ちます。
すなわち、

 

「識別コード」によって一元管理されている

アンドロイドたちそのものを表している

ということがわかります。

 

identity

今回のストーリーのテーマとして挙げられるのは

「アンドロイドたちに感情が生まれ

自我を持つ」ということ。

 

したがって、IDには“identity”(「自分らしさ」, 「個性」など)という意味も

含まれているのではないでしょうか。

心を持つことで新たに生まれた

アンドロイドたちの個性が表されていると思います。

 

こうして見ると、“ID”という単語には

アンドロイドたちが感情を芽生えさせる前と後、その両方が含まれていて

このストーリーの主人公たる彼女たちそのものを体現するものだと感じられます。

 

ピリオド(.)の付け方

ところでこの“I.D”という単語、

IとDがピリオド(.)で分けられていますね。

 

通常、ピリオドは日本語でいう句点(。)の用法で使われますが、

それ以外にも単語の略記として使われることがあります。

例えば「体育」と言う意味の“Physical Education”は“P.E.”と表記されることがあるでしょう。

U.S.AやMr.などもこれにあたります。

つまり、ピリオドは単語の“略された部分”につけられるものです。

 

それならば、identificationやidentityの略たるIDは

“ID.”

と表記されるのが自然ではないでしょうか。

 

なぜ、IとDの間なのでしょうか。

 

そして私は、

「このピリオドはIとDを分かつ目的なのではないか」

という考えに至りました。

 

次にこの真意について述べます。

 

……らぶですか?

私がこの考えに至ったきっかけは、

以下のふーみんさんのツイートです。

 

それでは「I.D 〜EScape from Utopia〜」という曲名の大文字を抜き出し、

“IとDを分けて”読んでみましょう。

 

I DESU

アイ です

愛 です

らぶ です

 

この言い回しにピンときた方もいるかと思います。

真壁瑞希のLTH収録のソロ曲「…In The Name Of。 …LOVE?」に

「……らぶですか?」

という歌詞(というかセリフ)があります。

 

キャラクターの別の曲からネタを上手く使いつつ、

アンドロイドたちに芽生えた感情

すなわち「愛」の存在を明示しているのではないかと思いました。

 

しかしながら、

これだけだと少しこじつけがましいかなという気もするのですが、

この解釈を支持しうる手がかりを、1つだけ発見しました。

 

曲中に隠された声

ラスサビ前の「Utopia」の中に、

よ〜く耳を傾けると何か声が聞こえます。

(ホラーではなく)

 

まずはこちらの動画をご覧ください。

 

はっきりと断定はできないのですが、

真壁瑞希の声で「らぶ」と言っているのではないか

と考えられます。

 

もしこれが事実であれば、

先程の「らぶです」説も濃厚になるのではないでしょうか。

 

“EScape from Utopia”について

“escape from utopia”

この文を直訳すると「ユートピアからの脱出」。

 

本作における「ユートピア」とは

MOTHER AIによって統治された世界(トウキョウ スプロール)のこと。

アンドロイドによって人間たちの争いが起きないように管理された、

平和な理想的社会。

 

したがってこの文は、

感情が芽生えMOTHERから追われることになった彼女たちの逃避行という

ストーリーの大筋を表しています。

 

また、“EScape”というのは今回の彼女たちのユニット名であり、

すなわち真壁瑞希, 北沢志保, 白石紬のことです。

 

そして、ユートピアのもう1つの意味、

それは「感情を持ったEScapeの3人が幸せに暮らす理想郷」。

ドラマCode:4で「夢」と呼ばれている風景です。

 

したがって、

“EScape from Utopia“はまさしく

「夢の中にいるEScapeたち」という解釈もできるのではないでしょうか。

 

先程のIDと同様に、

感情が芽生える前後を同時に表現していて

面白いと思いました。

 

感情の目覚め

続いては、

「I.D 〜EScape from Utopia〜」の大文字を

ID, ES, U

の3つに分解してみましょう。

 

「自我の目覚め」

ラテン語で“id”(イド)

ドイツ語で“es”(エス)

という単語があります。

 

フロイトは精神分析において自我を以下の3つの段階に分けました。

  • 「エス/イド」
  • 「自我」
  • 「超自我」

私自身この分野は素人ですし、詳しい説明は省きますが、

この「エス/イド」というのは

人間の「本能的な衝動」

無意識に現れる感情を意味しています。

 

彼女たちに芽生えた感情というのはまさしくこの「エス/イド」にあたるというわけです。

実際、

ドラマ内でシホが命令から逸脱して

チハヤと戦闘しようとしたシーンがあったでしょう。

あのとき既にシホには本能的な感情が芽生え始めていた。

 

ミズキとツムギから「シホ」という名前をつけられ

「嬉しくないのですか?」と聞かれたとき、

「『嬉しい』って、それって、……感情でしょ?」

シホの声は困惑を隠しきれておらず

無意識のうちに感情を持っていた。

 

すなわち、

タイトル中の”ID”, “ES”の部分によって

彼女たちに芽生え始めた本能的な感情が表現されているのではないかと考えられます。

 

歌詞中にも「Inputされたこの衝動が」とあり

「エス/イド」の存在をほのめかしています。

 

「他者を思う感情の目覚め」

ID, ESときて、残りの“U”。

“U”とは、“You”の略として使われることが多いです。

 

自我に対する、第二者。

 

つまり、「誰かを思う」という感情の芽生えを表していると思いました。

 

それは彼女たちがお互いを思う心。

チハヤを思う心。

 

感情を持つかもしれないミズキとツムギが

サイバーポリスに処分されることを嫌だと思うシホの気持ち。

 

チハヤとの別れを惜しむミズキとツムギの気持ち。

 

3人一緒ならば、怖くないという気持ち。

 

感情というのは

自分の気持ちと 相手への気持ち

 

この曲の立ち位置

最後に、

この曲は物語の全体像を表しつつも

アイドルの楽曲として上手くイメージ化されていると感じました。

 

この物語における主人公の最期はとても切ないものですが、

しかし夢の中の彼女たちはきっと幸せに暮らしていることでしょう。

そして、どうやらチハヤの「願い」とやらも、

彼女たちが身を滅ぼして叶えることができたみたいですね。

 

そういった悲しさの中に見出せる幸せをもって、

「Melty Fantasia」では悲観的に

「I.D 〜EScape from Utopia〜」では楽観的に

この物語を歌い上げていると思いました。

 

この曲は物語そのものであり、

物語を経た真壁瑞希, 北沢志保, 白石紬の意志である。

両面から本作を表す集大成だと考えています。

 


 

余談

今回はあくまでも

「I.D 〜EScape from Utopia〜」という曲に関する考察ということになっています。

 

ストーリーは本当によく作られていますが、

あえて描写されない部分も多く、

我々に考える余地を与えてくれています。

 

ストーリーの考察についても、

私なりの考えがいろいろとありますが、

とりあえずはみなさんなりの結末を想像したらそれで良いんじゃないかと思いました。

 

また気が向いたら書きます。

 

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私なんかが生意気なんですが

「I.D ~EScape from Utopia~」のミリシタMAD作りました。

よかったら見てください。

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【感想, 考察, 解説】小説「BanG Dream! バンドリ」

※ネタバレ注意※

 

まえがき

バンドリ小説の感想と考察を、解説も添えながらまとめました。

 

バンドリを昔から知っていた人も、

最近知った人も、

是非この記事を読んでほしいと思います。

 

「ここはそういう意味だったのか」とか

「そんなこともあったな、懐かしい」とか

「そういう考え方もあるんだ」とか

色々考えながら、バンドリ小説の魅力を再発見できると思います。


 

はじめに

本作の章分けは以下の通り。

  1. いつか出会える夢を信じて
  2. 踏みだすキミを待ち続けてる
  3. 解き放つ 無敵で最強のうたを!
  4. 夢とキミが出会うメロディ♪
  5. まっすぐにホントの声きかせて
  6. 走り始めたばかりのキミに

1〜5章タイトルはご存知の通り、

初めてのオリジナル曲「Yes! BanG Dream!」(以後、イエバン)の

歌詞の一部である。

イエバンという曲はバンドリのストーリーそのものを表している。

イエバンの歌詞を加味しながら物語を読んでいくと一層楽しめるだろう。

 

また、「星の鼓動編」と言う名前にもあるように、

このバンドリのストーリーの集大成が

「STAR BEAT! 〜ホシノコドウ〜」(以後、スタビ)

と言える。

こちらの歌詞も合わせて楽しんでいきたい。

 

また、6章タイトルは6曲目のオリジナル曲のタイトルになっている。

(以後、はしきみと表記)

 

#01 いつか出会える夢を信じて

あらすじ

歌が好きだった戸山香澄は、小学生時代に馬鹿にされたのをきっかけに音楽が嫌いになってしまい、さらには他人とのコミュニケーションにすら恐怖心を抱くようになってしまった。高校へ入学するもその対人恐怖は悪化するばかりで、そんな自分に嫌気が差していた。そんな中、香澄は街中に記された星のマークと矢印を発見し、それを頼りにある質店に辿りつく。そこに置かれていた星型のギター、ランダムスターを目にした香澄は再び音楽への想いを募らせ…。

全体的には、#01は設定の導入と、起承転結の起にあたる部分である。

感想

物語の導入部分ということもあり、会話はほとんど無くとにかく香澄の暗い部分が目立つが、対象的に何か面白そうなことが始まる予感が際立っていた。

読み始めると、最初の書き出しに驚かされる。

香澄は本当は音楽が大好きで、なかでもギターロックが大好きだ。

1文目からいきなり”本当は”という言い回しであった。すなわち、香澄という子が一見すると音楽が全く好きではないということを示している。2文目から香澄が好きな音楽について説明するが、直後に

(略)ミュージック・ファイターにしびれた。

だけど、そういう者に……、

 

そういう者に、わたしはなれない。

と、一気に否定する。ここから香澄が人前で歌うことや人と会話をすることへの恐怖が語られる。しかし、どうしてそうなったのか理由の説明はせず、#01の後半に公演で子供が歌っているのを見てから自分の小学生時代を回想することで語られる。これは、物語の時間軸のベースを高校生活に固定するためである。時間軸を固定しつつ、必要な時に逐一過去を振り返るという書き方が随所に見られた。他の例を挙げると、香澄が学校に遅刻した日の授業中、机の落書きで会話をするシーン。時間の流れはそのままで、途中に机の落書きで会話をするに至ったきっかけが挿入される。

回想が頻繁に盛り込まれ時間感覚がつかめないと思うので、#01全体の時間の流れを確認しよう。冒頭で香澄が歌への恐怖を説明した直後に

だからカラオケも断っちゃったんだ……。

入学式の日のことを思いだして、香澄はしょぼんとした。

(中略)

香澄は車窓をながめながら、ため息をついた。

とあるように、この物語は入学後のある日の通学から始まる。そして、通学中に星に導かれて質店に行く。その後は遅刻して学校へ行き、放課後にまた質店へ足を運ぶところで終わる。そう、#01は全体として1日すら経っていないのである。もしこれを時間に忠実に書いたならば、子供時代から始まり、入学式当日、入学後のある日、という流れになるはずである。私が小説を読み慣れていないというのもあるが、このような時間を切り取った意味構造が面白いと思った。

次に印象的だったのは、通学中のシーンの

耳にイヤホンを付けると、世界に薄い膜がかかった気がした。

音楽は流れていないから、聴くフリをしているだけだ。

という部分。音楽が好きだった香澄がイヤホンという音楽を聴くためのツールを用いて、音楽や外界からの音を遮断しようとしているところに大きな皮肉のようなものを感じた。さらには、その直後に通りかかった女子高生三人組の会話が聞こえているのである。つまり、”気がした”とあるようにイヤホンで耳をふさぐことが実は意味をなしていないこともまた皮肉的であり、香澄がどれだけ辛く厳しい心境にいるのかが伺えた。

これに対して、香澄が星印を夢中で追いかけるシーンで

音のしないイヤホンはもう、外してしまった。

とある。この時の香澄は、きっと追いかけるのに必死でそれ以外のことに意識は向いていないだろう。すなわち、イヤホンを外しているけれど周りの音は聞こえない状態にあるということである。耳をふさいでいるのに音が聞こえて、耳をふさいでいないのに音が聞こえないという一見矛盾した対比関係から、物理的なことよりも精神的なことで物語が進んでいくということがわかる。小学生時代に歌を嫌いになったエピソードを回想してから、

あれから聞こえなくなったんだな、と、香澄は思った。

とある。ここでの「聞こえない」とは、好きな音楽を聴いたり楽しい出来事があったりしても何も感じないということである。香澄の閉ざされた心が、耳で例えられていることがわかる。

小学生時代の香澄が「わたしは、歌なんて好きじゃないです」と言うシーンは、読んでいて本当に胸が苦しかった。心の中で自分は歌が好きなのかを何度も問い詰め、歌によってこんなに辛い思いをするのならばそんな歌なんて好きじゃないと結論づけたのである。

香澄の心の奥で、なにかが凍りついていた。

凍りついた”なにか”とは、なんだろうか。歌を楽しむ気持ちだろうか。「聞く」ための耳だろうか。突然、香澄の心の耳は塞がってしまった。このセリフを放った直後から保健室に運ばれるまでの記憶が無いことが、香澄の中で大きな転換があったことを意味する。

ところで、文章中に頻出するワードがある。それは、”サイテー”である。1つ目は、入学以来全く人と会話ができない自分に対して。2つ目は、ワクワクするはずの日々を楽しめない自分に対して。3〜5つ目は学校での失敗に対してである。1日の間に5回も、香澄は自分のことを”サイテー”であると感じた。本章の香澄自身を表すのに最もふさわしいワードであった。

また、本章での印象的なシーンとして、香澄が街中に記された星を追いかける部分がある。この星印は”ネコの目線の位置”くらいに配置され、下を向いている人にこそ見つけられる星がある、というトリックである。イエバンの1番Aメロの歌詞には

下を向いて歩いていても 星のかけら見つけたら

とある。また、スタビのMVを思い出してみよう。星が降ってきて、客席に大量の星が積もっている。まさにこのストーリーを暗示しているのだと思った。下を向いている人に夢を、というのがバンドリの1つの指標である。

イエバンはこの物語を体現した曲であると前述したが、上記のように文中に歌詞の一部が頻繁に登場している。他にも#01では、

小さな蝶の羽ばたきのような空気の動きが、明日のドアをノックすることだってある。

とある。”明日のドアをノック”の部分がそれにあたる。文の前後の”意思とは離れたところで未来は揺らめいている”と”香澄の前髪が揺れた”が小さな空気の動きに対応する。このシーンが曲のサビの

さあ飛び出そう! 明日のドアノックして

に対応しており、まさしく香澄が星を追いかけることで未来を変えようとしているところである。このように、イエバンの歌詞と本書が逐一対応していることがよくわかる。

本章ではバンドリにおいて重要なキーワードの1つが登場する。それは”星の鼓動”である。曲名にも登場するこのワードは一体何を意味するのだろうか。回想によれば、香澄が幼い頃に星空を見上げ心を打たれたときに感じた鼓動をこう呼んでいる。この鼓動というのは紛れもなく自分の心臓の鼓動である。つまり、自分の鼓動がはっきり聞こえるほどの胸の高鳴るような魅力に出会うということである。

最後に1つ、気になった点がある。香澄が現国の授業中に当てられて読んだ誤ったページの文章である。

恋はスタンプカードのようなものだ、

(中略)

その日まで、私たちは小さな声で歌うのだ。絶対

調べてみたところ、本作の著者である中村航先生の作品「絶対、最強の恋のうた」の文章であった。便宜的に自作品の文章を使ったのか、それとも何か関連した意味があるのか…「最強のうた」という部分が妙に引っかかる。機会があればこちらも読んでみたいと思った。

 

#02 踏み出すキミを待ち続けてる

あらすじ

登校中、星に導かれてたどり着いた質店のランダムスターがどうしても気になった香澄は、放課後にもう一度その質店を訪れる。家主の有咲に案内され、蔵に仕舞ったランダムスターを触らせてもらうと、香澄はついに星の鼓動に出会うことができた。ランダムスターに触れて豹変した香澄を見て、有咲は香澄にランダムスターを譲ることにする。ただし、有咲の課すミッションをクリアすることを条件に。こうして香澄のギター練習が始まったが、次に課せられた人前で歌うというミッションが香澄の前に立ちはだかる。

バンドリという物語が、ついに一歩動き出す場面である。

感想

大きなポテンシャルを秘めた香澄と、香澄から才能を引き出してやる有咲がいいコンビだった。特に有咲が香澄のギターとの相性に魅せられた時のロマンチックな表現が面白かった。

質店の市ヶ谷有咲という人物が増え、香澄と有咲の会話をベースに進行する。これまでは香澄の視点で描かれていたが、視点が一度有咲に移る部分がある。香澄が初めてランダムスターに触れた、蔵での一連の出来事のシーンである。ここでの香澄はランダムスターに夢中で、有咲の言うことが度々聞こえていないほどである。つまり、物語の進行上は客観的に見ている有咲視点の方が情景を具体的に説明できるのである。加えて、冷静な立場の有咲から見える香澄の様子がどれほど高ぶっていたのかを強調する効果もある。時間の経過を用いてごく自然に視点の切り替えが行われていて、面白いと思った。

#01で登場する、高校での香澄に影でつけられているあだ名、「スタ子」が登場する。星のキーホルダーを付けてるからなのか、スタスタとすぐに帰ってしまうからなのか、それが蔑称であることは間違いない。しかし、ランダムスターを手にした香澄のことを有咲は「ランダムスタ子」と呼んだ。香澄は笑顔で

「そう、わたしスタ子! ランダムスタ子!」

と答えた。影で呼ばれていた蔑称を、自ら笑顔で名乗ったのだ。ランダムスターが、香澄を塞いでるイヤホンを外したことがわかる描写だった。

ところでバンドリは声優が実際にライブを行うことで一緒に成長していく物語である。その最初のライブは、2015年4月18日だった。それから何度もライブをしてきた。その時の決まり文句は

「最高が欲しいんでしょ?」

だった。この言葉のルーツが、ランダムスターの元持ち主である有咲の父が好きだったKISSのライブアルバムでボーカリストが放ったセリフだったのだ。

楽器を鳴らすマネをして、ひとしきり楽しんだ香澄は、不意にあるワードを口にする。

「夢を撃ち抜け!」

―BANG! DREAM!

そう、これが本作品のタイトルである。

そのとき始まったものの正体を、まだ二人は知らない。

すなわち、これがバンドリの原点でありスタートであることを意味する。そして、何ということだろうか、香澄と有咲のバンドリ物語が動き始めたこの日この時が、まさに4月18日の18時頃、実際に最初のライブが行われた日時なのだ。最初のライブから通いつめ、ともに成長を分かち合った私としても、この演出には目頭が熱くなった。演者と一緒に成長していく物語であるから、こうして現実とリンクした描写も頻繁に盛り込まれている。そういう夢を夢だけで終わらせないところがバンドリの魅力の1つかなと思った。

また、香澄がバンドリというワードを口にするシーンの最初の形式段落はこのように書かれている。

その後に起こったことを、有咲はずっと覚えている。

2人がひとしきり楽しんだ後香澄がバンドリと言い放ったのだから、時間的にはつながっていることである。なのに、あえてバンドリ発言のシーンからは急に回想的にしている。有咲にとって忘れられない印象的な思い出だったことはもちろん、それがただの出来事ではなく特別重要な出来事であることを読者にも強調できる。

時間が進んで翌日、授業中のシーンで

退屈な授業のかたわらで、(略)窓の外を見上げた。

(略)遠く雲の切れ間がまぶしい。きっともうすぐ、腫れた空に会える。

SHINE!

どきどきしていた。(略)ずっとどきどきしていた。

この部分は#01に引き続き、イエバンの1番Aメロの後半と1番Bメロを表している。物語が曲に沿って進んでいるのがわかる。

ちなみに、香澄が家でもギターの練習ができるようにと有咲が貸したギターはレスポール型であると記されている。これは香澄を演じている愛美さんの私物ギターがレスポールスペシャルであることに由来すると考えられる。レスポールスペシャルは愛美さんが憧れるバンドに影響されて高校時代から使っているもので、後に声優の仕事に活かされバンドリという仕事に繋がることとなる。ファンにとっても思い入れの深いギターだ。

 

#03 解き放つ 無敵で最強のうたを!

あらすじ

有咲に課せられた人前で歌うというミッションに挫折しそうになるも香澄は見事にクリアする。それを見た有咲は香澄と一緒にバンドをすることを決意。しかしそこに突然、香澄のクラスメイトで忍者のような不思議な少女牛込りみが現れ、ベースを演奏してみせた。りみのベースの音を聴いた有咲は、彼女をバンドに誘うようにと香澄に新たなミッションを課す。一方で、金欠のため学校で炊飯器の白米を売りつけることで生活費補填を図っていたりみは、香澄とのやり取りのせいでそれが教師にバレて炊飯器持ち込み禁止になってしまう。教師に提案された香澄の隣の席の不登校生徒を学校に連れてくれば炊飯器持ち込みは許可するという条件をのんだりみは、このようになった原因が香澄にもあるとして、香澄に不登校生徒を登校させる任務に協力させる。そしてその不登校の生徒の名前はなんと、市ヶ谷有咲のことだと発覚する。有咲はりみをバンドに誘い、りみは有咲を登校させるというお互いの主張の架け橋となった香澄だが、どちらからも提案を拒まれ悩まされる。机の落書きでのやりとりで得たアドバイスを糧に、香澄はランダムスターの力を借りて自分の想いを伝えた結果、無事有咲は登校し、りみがバンドに加入したのだった。

新メンバー、牛込りみが加わった。また、歌への恐怖をひとつ乗り超えた香澄が、有咲やりみをも前進させる、成長が見え始めたシーンである。

感想

バンドを結成し新たにりみを加入させたり有咲が学校に行くようになったりするために奮闘し、一山越えて一件落着するというもの。今後もメンバーを集めるために色々な出来事が起こるであることは容易に推測できるが、毎度変化球で現れるキャラクターとメンバー加入までの試行錯誤が、面白さのポイントだ。

香澄が有咲に歌を披露する日の前日の蔵でのやりとりで、蔵に出入りするネコの”ザンジ”の描写が随所に挟まれている。まず1つ目は、ザンジが香澄の膝の上に乗ってくるシーン。この後香澄は、そういえば有咲はどこの学校に通っているんだろう、と有咲自身に意識を向ける。2つ目は、香澄がザンジの耳の付け根を撫でるシーン。有咲の前で歌うことへの不安を募らせる。3つ目は、ザンジが香澄の膝の上から去るシーン。もし歌えなかったら有咲に失望されてしまうと考える。このザンジの動きは、香澄が有咲に対して向けている潜在的な意識を表現しているのではないかと思った。

ついに香澄が有咲の前で歌を披露するというシーンには、スタビやイエバンの歌詞が登場する。”聞こえないふりを続けてきた”や”歌を解き放とう”、”眠っていた声”である。もう何年も人前で歌っていなかった香澄が歌への恐怖を一歩乗り超えるという極めて重要な場面で、より密接に曲とリンクしているので、緊張感や感情移入が一層強くなった。

ところで香澄がりみにお弁当のおかずを分けてあげるシーンで、りみが食べていたのはブロッコリーだった。ブロッコリーの花言葉は「小さな幸せ」だそうだ。塩ご飯をおかずにご飯を食べていたりみにとって、分けてもらったおかずは小さな幸せだっただろう。こじつけがましいが。このシーンの最後にはプチトマトを食べている。プチトマトの花言葉には「感謝」があるようだ。おかずを分けてもらったお礼だろうか。こじつけがましいが。

お互いの主張を曲げず膠着状態になる有咲とりみの注意をひくために、香澄がギターを鳴らした時に使ったエフェクターはジェットフランジャーだった。フランジャーは、特定の場所に使うことで意外性を出したり強調をするものだそう。2人の注意を引くという点を考えて用いられたのがわかる。楽器の知識が乏しい私は調べるまでジェットフランジャーなど知らなかったが、楽器やバンドにある程度通じている人からすれば、本作品はそういったネタがよく登場するので読んでいて楽しいのではないだろうか。私も知らない用語はできるだけ調べて、そのシーンの効果に納得する事が多かった。

無事に有咲を学校へ登校させて一件落着した最後のシーンで、香澄は机の落書きに次の1文を添える。

わたしカスミっていいます。よかったらあなたの名前も教えて!

本章はこの1文で終わるが、ここに1つの苦難を乗り超えた香澄についた自信であったりとか、この先訪れる未来へ希望が垣間見えた。

本章では、登場人物が増えて会話文も増えたため、非常にテンポよく展開していた。りみのキャラクターはバンドリのリニューアルで最も抜本的に変わってしまったが、忍者、裸足、クマ、関西弁ととにかく賑やかなキャラの濃さは懐かしかった。ライブで実際に裸足に上履きをはいていたこともあった。暗くて引っ込み思案な香澄や冷静で不登校の有咲と比較してもかなり対象的で、物語を一気に加速させる面白い存在だと思った。

また、本章で初登場した牛込りみだが、彼女を演じる西本りみさんに関連する要素がいくつか登場する。まずは香澄の目を引くのに使っているリラックスしたクマのぬいぐるみ。これは西本りみさんが大のリラックマ好きであることに起因する。次に彼女が時々関西弁を使うところや、タンバの米と言うシーン。これは兵庫県出身で、実際によく関西弁を使っていることが由来。そして彼女が弾いた蔵にあったベース、赤いアイバニ。これもまたESPからバンドリ用ベースが贈られるまで実際に使用していた私物のベースである。また、有咲が購入した白いキーボードはRolandのJunoシリーズということだが、こちらも有咲を演じる伊藤彩沙さんが実際に使用しているものである。

 

#04 夢とキミが出会うメロディ♪

あらすじ

いよいよ本格的にバンドとして練習を始めた蔵Party(仮)、通称クラパの3人は、いずれメンバーを増やしてライブをしたいと考えていた。そんなある日、学校の屋上でアコギを弾く少女、花園たえを発見する。彼女の音色に感化され、3人は一層の技術向上を決意した。後日、有咲はクラパのプロジェクト名を”BanG Dream!”と命名する。これは以前香澄が初めてランダムスターを触った時に思わず発したワードだ。それが偶然にも、りみが地元で憧れのバンドのライブを見るために通っていたライブハウスの壁にも同じワードが書かれていたのだ。さらには、今は亡き有咲の父がランダムスターと一緒に封印していた”成り上がりノート”にも、”Yes! BanG_Dream!”というタイトルの曲が書かれていた。メロディと”In the name of BanG_Dream! Yes! BanG_Dream!”という歌詞のみが残されたこの曲を完成すべく、香澄は作詞を一任される。最初は初めての作詞に頭を悩ますも、机の上の落書きで会話をしている”サアヤ”にアドバイスをもらいながら、ついに歌詞を完成させた。残すは曲のコードだけ、というところで3人は再びたえを発見する。公園でギターを演奏するたえが最後の曲を弾き始めると、香澄はそれが”Yes! BanG_Dream!”のコードであることに気づいた。香澄はたえをバンドに誘うが、逃げられてしまう。なんとか3人でたえを説得し、クラパのリードギターとして迎え入れることになった。”Yes! BanG_Dream!”のコードはたえが幼い頃に出会ったギターの師匠が託していったものだという。奇跡のように導かれて出会った4人は、”Yes! BanG_Dream!”の完成を目指した。その後、たえが知り合いのつてで地元の夏祭りのステージでの演奏を勧められ、思わず快諾してしまう。突然のライブ参加に戸惑うも、4人は猛練習を重ねた。不安を乗り超えて、ライブを全力で楽しむことが出来た。

新メンバー花園たえが加入した。また、”BanG_Dream!”というワードに秘められた謎が、少しだけ明らかになる。

感想

香澄の歌詞とたえのコードが合わさって”Yes! BanG_Dream!”になったときは歯車が噛み合ったような気持ちよさがあった。主旋律を残した有咲の父と、コードを残したたえの師匠、そして師匠が西へ行くと言ったこと、りみの地元にも”BanG_Dream!”の文字があったこと、少しずつ謎が解き明かされて、ワクワク感と早く読み進めたいという好奇心を掻き立てられた。また、たえがまた良いキャラをしていて、4人の漫才みたいな会話が面白い。

色々な曲をコピーしてバンド練習をしていたクラパの3人だが、その時に女子高生っぽい曲をと選んだ曲が「シャングリラ」「君の知らない物語」「天体観測」「シリウス」などなど。オリジナル曲がほぼ無かった1stライブ当時のバンドリは、アニソンカバーが中心だった。ここに登場する曲の中にはライブで実際にカバーしたものや、そうでないものもある。もしかしたら企画会議で案に挙がったものだったりするのだろうか。同じような世代の曲ばかりで、どれも私の好きなアニソンばかりだ。実際にライブで聴いた時の胸の高鳴りや、体中から湧いてくる興奮を今でも覚えている。

本章ではいよいよイエバンの歌詞そのものに迫ることになる。”成り上がりノート”に残されていた

In the name of BanG_Dream! Yes! BanG_Dream!

という歌詞において、”BanG”と”Dream”の間に”_”(アンダーバー)が入っているのがわかる。バンドリのリニューアル前はタイトルにも必ずこのアンダーバーが入っていたが、何故かそれは無くなってしまった。何か不都合があるのか、消えた理由はわからないが、イエバンの歌詞にだけは残っている。タイトルから消えたアンダーバーは、この星の鼓動編というストーリーそのものだと思って、脚本が一新されても一生忘れないでいたいと思った。

それはさておき、香澄はイエバンの作詞をするために、机の落書きの相手”サアヤ”からの助言をもらっていたことがわかった。このサアヤとはもちろん山吹沙綾のことだ。そして、イエバンの歌詞

教室の机の上に刻まれた キミの夢

きっと ずっと 遠くて眩しいから FINE!

と言う部分が、何度も香澄の背中を押してくれたサアヤに向けて書かれたものだということがわかり、膝を打った。

また、歌詞中に何度も”キミ”というワードが現れる。サアヤのことかとも思ったが、”夢とキミが出会うメロディ”ということは、きっとこの曲に出会いバンドリの名のもとに生きる全ての人のことを表していると思った。あなたも夢を撃ち抜いていこう、というメッセージを感じた。

ライブ中の描写として

もっと弾きたいし、もっと歌いたいし、もっと弾けたかった。

とあるが、”弾けたかった”というのは、もっと弾きたいけど、演奏技術が伴っていないということだ。夢中で楽しいけれども、まだまだ足りないところがある悔しさのようなものを感じた。実際にライブ経験を重ねていた演者たちも、きっと同じ思いだっただろう。これに関連して、#04の内容になるがライブをすることになった香澄に対してサアヤは落書きでこう助言する。

のどのケアに気をつけてね!

実際に行われた一番最初のライブのアンコールで、愛美さんは喉を枯らした。声が出なかった。それでも一生懸命に絞り出そうとしたが、歌声にならなかった。思わず涙を零した。聴衆は、みんなで一緒になって歌った。「創聖のアクエリオン」を聴くと、今でもそれがフラッシュバックする。いつも笑顔、笑顔が取り柄の彼女が、悔しさの余りファンの前で涙を流したのだ。彼女にとって、それがどれだけ悔しかったのか、ファン歴の浅い私から見ても明らかだった。もしかするとサアヤのこの一言には、過去に悔しい経験をした彼女からのメッセージを代弁したものなのかもしれない、と思った。

夏祭りライブで1曲目に子供向けアニメの曲を演奏したのは当時の漫画連載のストーリーと同じで、2曲目の「オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ」は2015年10月に行われた4thライブで実際に演奏したのが由来かなと思う。当時の連載ではこの時「夏空 SUN! SUN! SEVEN!」が作られた。

本章初登場の花園たえは最初、アコギを弾いている。たえを演じる大塚紗英さんはもともとバンドリをやる前からアコギの経験者だったのだ。花園たえ同様、バンドリに参加するにあたって、初めてのエレキギターを1日12時間の猛特訓したそうだ。先輩たちの足を引っ張らないように、とにかく努力に努力を重ねる謙虚さは、花園たえにそっくりだと思った。

 

#05 まっすぐに ホントの声きかせて

あらすじ

夏祭りのライブを終えた4人は、オリジナル曲の制作とドラムメンバー集めを次なる課題とした。一方で、4人のライブを見ていた沙綾は、香澄に机の落書きで自分がライブを見ていたことや、ドラムの経験があることを伝える。香澄は、それを見て沙綾をバンドに誘うも、断られてしまう。香澄は沙綾に会いたいと伝えると、有咲と同様に星印で、自分の家を教えた。ついに4人は沙綾と初対面するも、香澄はバンドの誘いを断られたショックで再び自信をなくしてしまった。見かねた有咲は、荒療治といって香澄に「自分のスタートになるような、その歌を背負って、その歌を愛して愛されるような歌を創るまでは蔵の出入りは禁止」と告げる。悩む香澄は、再び沙綾の家にたどり着く。香澄は沙綾に悩みを全て打ち明け、沙綾は親身になって応えた。力をもらった香澄は無我夢中で歌を書き上げた。沙綾はその歌を読んで、自分が以前バンドをやっていたことを香澄に打ち明ける。香澄は自分の作ったその歌を完成させて聴かたいから蔵に来てほしいと言い残して去った。香澄が蔵に戻り、4人で暗中模索して曲を創っていると、そこへ沙綾が現れる。沙綾もまた、過去の自分を乗り超えて、またバンドをやりたいと言った。5人のバンド、”Poppin’ Party”が誕生した。

ついに最後のメンバー、山吹沙綾が加入し、バンド名が”Poppin’ Party”に決定する。また、”BanG Dream!”に隠された謎も明らかに。

感想

最も物語の核心に迫るシーンだった。香澄にとって歌とはどういう存在なのか、本当の自分とは一体どういうものなのか。丁寧に描かれていて、心にダイレクトにぶつかってきた。

香澄が創る曲について、有沙は最初に”小心者のテーマ”にしなさいと言った。その後、”自分のスタートになる、背負っていけるような歌”にしなさいと言った。私はスタビはこの物語の集大成だと前述したが、それは小心者の香澄が自分の歌と向き合う覚悟ができた時に初めてPoppin’ Partyが誕生するという意味である。

スタビの歌詞にも”キミ”というワードが現れるが、これは香澄の中にいる香澄自身のことだと思った。歌いたいと願う自分の本心を呼び覚まし、一生歌を背負っていくことを誓った曲だ。

香澄は過去の経験から歌うことをやめ、沙綾もまたバンドをすることをやめてしまった。同じ境遇にいた2人だからこそ無意識に惹かれ合って、香澄は沙綾の言葉に背中を押され、沙綾は香澄の歌に目を覚ましたのかもしれない。

悩みを打ち明けた香澄に対して沙綾が言った言葉は

「(略)人生は魔法じゃないから」

「だから何度でも、歌うんじゃないかな」

「歌は流れ、継がれる。どんな歌だって、再び歌われるときを待ってる。何年経っても、もう一度、思い出して口ずさむ」

以前、香澄が沙綾にもらった言葉が”魔法”と表現されていた。しかし沙綾は、”魔法じゃない”と言った。何度も思い出して口ずさむ、”POPPING!”という魔法の言葉もそうだ。昨日までの自分にサヨナラをして、大切なものに何度でも出会うために、何度でも歌うのだ。魔法で自分を変えるのではなくて、自分は自分なのだから大切なものを何度でも思い出しながら進んでいこう、私はスタビの歌詞からそう読み取った。

途中で語られる”BanG Dream!”に秘められたトリックの答え。昔活動していたとある4人組バンドの1人が有咲の父で、もう1人はたえの神で、もう1人はりみが通っていたライブハウスの店主だった。もう1人は事故死してしまったため、解散となった。沙綾の父はそのバンドの解散ライブを偶然目撃していた。各々が”BanG Dream!”というワードやその曲の一部を託し、それぞれがポピパのメンバーへ渡って奇跡のように再開する。というもの。香澄だけが、”BanG Dream!”というワードを自分で思いついたのもまた、奇跡である。このカラクリには素直に感心させられたし、バラバラだったパズルのピースがだんだんとはまっていくような楽しさがあった。

このバンドリの名のもとに活動していたバンドは、歌うことはやめてしまった。しかし、バンドリという曲に恥じないように生きていこうと誓い、その場に立ち会った人々は何度もこのワードを思い出し助けられながら生きていた。これはまさに、沙綾が香澄に言った内容そのものである。

本章でバンドの正式名称が「Poppin’Party」(以後、ポピパ)に決まるが、これは実際に演者が話し合って決めたものである。最初に発案したのは愛美さんで、そこに他メンバーが賛同する形で決まったそう。本書ではメンバーが全員揃うまでの間はクラパ(仮)だが、漫画連載当時はメンバーが3人になった段階ですでにこの名前になっている。当時の連載は荒削りなバンドリのプロトタイプで、小説版になって細かい修正やもっと深いアプローチが盛り込まれストーリーが完成するというような印象を受けた。バンドリの連載が開始した当時中村航先生は「ナカムラコウ」とカタカナの名前を使っていたことも考えると、当時はまだバンドリが試作段階だったことが推測できる。小説版を機に、久々に当時の月刊ブシロードを読み返してみるとまた面白い。

ちなみに沙綾が自宅でドラムパッドを叩いてるシーンに”頭へごちん”というフレーズがあるが、御存知の通り沙綾を演じる大橋彩香さんのネタである。当時の連載にも同じ文章が登場しており、沙綾役の声優が発表される直前ということで「もしかしたら大橋彩香さんなのではないか」というファンの推測が話題になっていた。

 

#06 走り始めたばかりのキミに

感想

エピローグのような部分で、ついに5人揃ったポピパの各メンバーがこれからの未来に決意を表し物語は幕を閉じる。走り出したポピパを送り出すようにして添えられたのは、はしきみの歌詞である。作詞作曲は沙綾ということになっている。歌詞に登場する”キミ”とは沙綾が再びバンドを始めるきっかけとなった香澄の存在だと思うが、走り始めたばかりの”キミ”とは、ポピパや香澄だけではなく、これから人生という道を走っていくであろうそこのあなたのことだ。

ちなみに円陣をするときの掛け声は、実際に演者が使っているものである。

 

おわりに

これはバンドが成長していく物語、ではない。夢を目指す者たちが互いに惹かれ合い、自分の持つ壁を乗り超えるための物語だ。だから物語はバンドを結成したところで幕を閉じている。

かつては歌うことを諦めた香澄は、歌いたいという自分の本心に気づけた。音楽を諦めた沙綾もまた、音楽をやりたいという本心に気づいた。蔵に閉じこもっていた有咲は、見つけた夢のために外へ出ることが出来た。夢に出会うために努力を続けたたえは、1つの夢に出会えた。

いつからだろう、いつの間にか、私には夢というものは無くなっていた。もしくは気づいていないだけなのかもしれない。私も香澄ほどではないが、人と話すことへの恐怖があったり自信を失くすことがある。変わろうとするんじゃなくて、進んでいこうと思った。バンドリの名のもとに。


 

あとがき

小説版のバンドリは、

現在月刊ブシロードに連載中のストーリーとは異なり、

それ以前に連載していた方のストーリーがベースです。

こちらは「星の鼓動編」として1年余りで完結してしまったのですが、

単行本化はされていないため

当時の月刊ブシロードを持っている人にしか読むことの出来ない

貴重なストーリーとなっていました。

 

私にとってのバンドリの原点はこの「星の鼓動編」であるため、

こうして書籍として再びファンの手に渡っていったことに

大変感謝しております。

 

この物語の続きは、自分の目で、確かめたいと思います。